【ゼロから高校倫理の教科書】大乗仏教の成立とその教え

スポンサーリンク
大乗仏教の成立とその教え 高校倫理
スポンサーリンク

この記事が対象としている方

  • 大学入試で倫理を使う受験生
  • 定期テストや日常学習で倫理を勉強している高校生
  • 大乗仏教の成立やその教えを体系的に理解したい人

【この記事のキーワード】
大乗仏教、上座部仏教、菩薩、六波羅蜜、法華経、一切衆生悉有仏性、竜樹(ナーガールジュナ)、空の思想、無自性、唯識思想、無著、世親

 これまでブッダの教えを学んできましたが、今回はその後に登場する大乗仏教の思想を取り上げます。ブッダの死後、教団が次第に分裂し、異なる地域や立場の人々の中で新しい仏教の形が生まれていきました。その中心にあったのが、「すべての人を救うための仏教」、つまり大乗仏教です。

大乗仏教の誕生 ― みんなで救いをめざす仏教へ

 ブッダの入滅(死)後、弟子たちは教えを守り続けましたが、次第に解釈の違いが生まれます。やがて教団は上座部大衆部に分かれ、さらに多くの部派に枝分かれしていきました。これを部派仏教と呼びます。

 その後、西北インドに異民族が侵入するなど、社会が大きく変化する中で、一部の僧侶や在家信者(一般の信者)たちの間から新しい運動が起こりました。これが大乗仏教の始まりです。大乗とは「多くの人を乗せて救う大きな乗り物」という意味で、誰もが悟りを開ける仏教をめざしました。

 従来の上座部仏教(のちの小乗仏教)は、個人が悟りを得ること(自利)を重視していました。それに対し、大乗仏教は他者の救済(利他)を第一に考えます。つまり、「自分だけが救われるのではなく、すべての人が悟りに至る道を開こう」とする考え方です。

菩薩の理想と六波羅蜜

 大乗仏教の中心的な人物像が菩薩(ぼさつ)です。菩薩とは、「自らも悟りを求めながら、他の人々をも救おうとする存在」のこと。彼らは仏となるための修行を続けながら、他者の苦しみを取り除こうとします。この菩薩が実践する徳目が六波羅蜜です。

  • 布施:教えを与えたり、財を分け与えること
  • 持戒:戒律を守り、正しい生活をすること
  • 忍辱:苦しみや侮辱を耐え忍ぶこと
  • 精進:仏道修行に努力を惜しまないこと
  • 禅定:瞑想によって心を静めること
  • 智慧:真理を見極める深い認識

 こうした菩薩の生き方は、『法華経』などの大乗経典に生き生きと描かれています。大乗仏教では、「誰もが仏になる可能性を持っている」とされ、これを一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)といいます。つまり、すべての生き物の中に仏となる本性があるのです。

「空」の思想 ― 竜樹(ナーガールジュナ)の教え

 大乗仏教の思想を哲学的に深めた人物の一人が竜樹(ナーガールジュナ)です。彼は「」という概念を中心に、あらゆるものの存在のあり方を問い直しました。

 竜樹によれば、この世界のすべてのものは他の要素に依存して存在しており、それ自体として独立して存在するものはありません。これを無自性といいます。たとえば「教科書」という言葉も、紙の束をそう呼んでいるだけで、本来は固定した実体ではありません。私たちは言葉や概念によって「ある」と思い込んでいるにすぎないのです。

 竜樹の有名な言葉に「色即是空、空即是色」があります。すべての物質的な存在(色)は実体がなく空であり、同時にその「空」こそが現実の世界(色)として現れている、という意味です。この思想は「すべてはつながりの中で存在している」という縁起の理解をさらに深めるものでした。

唯識思想 ― すべては心のはたらき

 竜樹の思想をさらに発展させたのが、無著(アサンガ)世親(ヴァスバンドゥ)です。彼らは「唯識思想(ゆいしきしそう)」を説きました。

 唯識思想によれば、私たちが「外の世界にある」と思っているものは、実は心の作用(識)が生み出したものです。つまり、世界そのものも自分自身も、根本的には「心のはたらき」によって作り出された仮の存在なのです。これを理解することで、外界への執着や「自分」と「他人」を区別する思い込みから解放されます。

 また、唯識思想では、瞑想(ヨーガ)を通して心を集中させ、主観と客観の対立を超えることを重視しました。これは菩薩の修行にも通じる実践です。

学習のヒント

学習のヒント!

  • 大乗仏教は「自分だけでなく他者を救う」ことを重視した仏教。
  • 菩薩は六波羅蜜の実践を通して悟りをめざす。
  • 「一切衆生悉有仏性」=誰でも仏になる可能性がある。
  • 竜樹の「空の思想」は、すべての存在が関係によって成り立つことを説いた。
  • 唯識思想は「すべては心の作用」であるとし、執着を超える修行を説いた。

まとめ

  • 大乗仏教:他者の救済をめざす仏教運動。
  • 菩薩の理想:自ら悟りを求めながら他者を導く。
  • 六波羅蜜:布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧。
  • 空の思想:あらゆるものは固定的な本性をもたない。
  • 唯識思想:世界は心の作用によって形づくられている。

 大乗仏教は、ブッダの教えを「自分のための悟り」から「みんなのための悟り」へと広げた運動でした。その根底にあるのは、「人と人とはつながりの中で生きている」という深い理解です。大学入試でも頻出のテーマなので、四法印や八正道とあわせてしっかり整理しておきましょう。

 次回は、いよいよ源流思想の山、諸子百家の思想について取り扱っていきます。次回もお楽しみに!

コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました