【ゼロから教養】
洪水神話はなぜ様々な地域でみられるのだろうか?

洪水神話ってそもそも何?

 これからお話しするのは、洪水という自然現象がなぜ世界各地の神話に広くみられるのかというお話についてです。歴史が苦手な人でも、物知り博士にさせるような話ですので、最後まで聞いていってくださいね。

 皆さんは、ノアの方舟をご存じでしょうか?ヘブライ人が信仰していることで知られる、民族宗教のユダヤ教や、世界宗教のキリスト教の聖典でもある『旧約聖書』の『創世記』に載っている話です。

中東世界ってこんな地域

ノアの方舟のあらすじ

 神様は、人間が堕落し、暴力に溺れた世界を見てこのように思いました。
 「人類はもうダメだ。洪水を起こしてすべての地上の命を滅ぼそう。」と。
 しかしながら、神様はただ一人正しいと認めた人間には救いを与え、「大きな方舟をつくれ」と命じたのです。この人間の名前がノアでした。

 ノアは家族とともにその方舟に入り、神様の指示に従って動物たちを連れて乗り込みました。すると、40日間夜通し大雨が降り続いたのです。地上はすべて雨水に飲み込まれ、方舟に入った者以外はすべての命が根絶やしとなったのです。やがて水が引き始め、方舟はアララト山にとどまります。

 ノアは鳥を放って、地上の様子を確かめようとしました。戻ってきた鳥はオリーブの葉をくわえていました。そこで、ノアは地上の洪水が収まったことを知り、さらに大地に新しい命が芽生えたことを知ったのです。水が完全に引いた後、ノアたちは方舟を降り、地上で再び生活を始めました。

 このとき、ノアは過ちを悔いた神様とある契約をします。それは「再び洪水ですべてを滅ぼすことはしない」というものでした。神様はその契約をノアと結んだしるしに、空に虹をかけたのでした。

洪水神話はどんな地域でよくみられるの?

 以上がノアの方舟のあらすじですが、このように洪水を神話として扱っているケースは数多くあります。ノアの方舟は『旧約聖書』の『創世記』に収録された話ですが、例えば中東の地域の中でもとくにメソポタミアと呼ばれる地域や、インドにも似たような話があります。

 私たちは紙や電子データとして様々な記録を残してきました。しかしながら、昔の人は紙なんてものはつくれなかったのです。メソポタミアにかつて住んでいたシュメール人も紙を用いることができなかったので、代わりに粘土板に神話を記したのです。その神話のなかには、洪水についての記述があるといいます。また、世界最古の文学作品ともいわれる『ギルガメシュ叙事詩』にも洪水神話が存在しています。

大英博物館に展示されている粘土板

 ※シュメール人が生きていたとされるのは今からおよそ6000~4000年前です。それにもかかわ  
  らず、シュメール人は文字を使っていたとされます。そして彼らが使っていたシュメール語 
  は、現在でも未解読です。

洪水神話はどのように「変わっている」のか?

 ここで、読者の皆さんには疑問に思う方もいるかもしれません。ノアの方舟が収録されている『旧約聖書』というのはユダヤ教の聖典でした。さらに言えば、『旧約聖書』はギルガメシュ叙事詩の影響を受けているといいます。

 それにもかかわらず様々な地域で似たような洪水神話は伝わっているのです。とくに、インドと中東地域は遠く離れていることを考えれば、なぜ似たような洪水神話が伝わっているのかというところは疑問に思うでしょう。

 また、この洪水神話は確かに共通点も多いですが、相違点も数多くあります。例えば、言語の違いや、神話に出てくる神々の数の違いなどです。また、キリスト教的な神の概念ではないという指摘もあります。とくに西ヨーロッパ中世では「神は過ちを犯すわけがない」という考えが広まっていました。神が最後に過ちを認めている洪水神話は、そのような意味でも「変わっている」のです。

洪水神話はなぜ様々な地域でみられるのだろうか?

 さて、このように世界的な神話となった洪水神話ですが、なぜ様々な地域でみられるのでしょうか?

 結論としては、わかりません

 はい。ごめんなさい。叩かないでください。

 もちろん、わかっていることもあります。メソポタミア近辺では、川の氾濫に伴う洪水がしばしば起こっていたのです。そのため、この災害をもとに洪水神話を描きだしたという見解もあります。しかしながら、ノアの方舟のように地球規模での大洪水が起こっていたとする証拠は見つかっていないのも事実です。ちなみに氷河が融けた当初の記憶を語り継いだという見解もあるそうです。

 一方で、『ギルガメシュ叙事詩』などのシュメール人の書いたものが、後世の人々によって翻訳され、現在の『旧約聖書』に繋がっているのは事実です。これについては、当時の人々が写した写本が残っています。

 そもそも、シュメール人が当時書いていた洪水神話ですら、記録が完全に残っているわけではありません。なので、どのように伝わっていたのか、あるいは、なぜそのような洪水神話が生まれたのかについても、さまざまな見解があります。新しい史料が発掘されて、この謎に満ちた洪水神話の詳細がわかる日が来ると良いですね!

 ちなみにですが、ヨーロッパでは聖書の記述から探索や捜索、発掘が行われることは珍しくはないそうです。この方舟に関しても多くの学者や冒険家が探索していますが、未だ発見されていません。

まとめ

  • ノアの方舟のような洪水神話はさまざまな地域でみられる
  • なぜさまざまな地域でみられるかについても、さまざまな見解がある
  • メソポタミア近辺では川の氾濫・洪水がよく起こっていたため、そのときの記憶を洪水神話として落とし込んだ可能性が高い
  • 方舟については、多くの学者や冒険家が探索しているが、未だ見つからず

 メソポタミアの洪水神話については、渡辺和子「洪水神話の文脈―『ギルガメシュ叙事詩』を中心に」に詳しいです。もっと知りたい方はこちらの論文も読んでみると面白いでしょう。

 では、次の「ゼロから知って深い教養」の記事で会いましょう!

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